新しい意味の「ドローン」


ドローン

と聞いて、真っ先に思い浮かぶモノは何ですか?

そもそも、ドローンって何でしょうか?

ドローンの厳密な定義は他に譲るとして、この記事では噛み砕いて、なるべく分かりやすい言葉で「ドローン」という言葉の変化を解説しようと思います。

無人航空機に対して"drone"という呼称が登場するのは、第二次世界大戦の頃のイギリスではないかと云われています。

80年も昔ですね。

由来ははっきりしませんが、実験用の無線操縦機Queen Bee(女王蜂)の関連語がdrone(雄蜂)であることから、何か関係があるのではないかと云われています。

最初の頃の"drone"は「有人の軍用機を改造して、無線で遠隔操作できないか?」という大型機でした。要するに、爆撃機のラジコン化です。


この試みはほぼ失敗したのですが、「遠隔操作で爆撃できないか?」という戦術思想は、誘導ミサイルの開発競争へと発展していきました。

そして"drone"という言葉は軍事用無人標的機偵察機に受け継がれていきます。



注目してもらいたいのは、人が乗るスペースがない以外は、プロペラが1つの普通の飛行機のような姿をしている点です。


こういった近年の軍事用無人偵察機も、プロペラは上向きについていません。しかし本来の言葉の意味から言えば、これも立派な"drone"なのです。

一方、現在の私たちがドローンと聞いて想像するものは…。


こんなのですよね。

・プロペラが4つ上向きに付いていて
・小型で個人でも所有できて
・空中から写真や動画を撮るもの

あるいは…。


子供の玩具
あるいは…。


レースやイベントでの競技用ラジコン

あとは業務用ですが、農薬散布測量工業分野での点検作業ライトショーなどのドローンが既に実用化されてます。防犯貨物運搬消火遭難者の捜索などの用途の開発も盛んに行われていて、ニュースなどで目にすることが多いと思います。

さらには、水中ドローン陸上ドローン、人が乗れる有人ドローンが登場するなど、広義では無人航空機という言葉に囚われない、無人機全般、あるいはマルチローター機全般を指す、曖昧な言葉になりつつあります。





この言葉のイメージの変化、まとめるとこうなります。

本来の意味のドローン

  • 無人航空機(飛行機やヘリもあり) 


新しい意味のドローン

  • 【狭義】無線で動くマルチコプター(RC飛行機やRCヘリを含まない)
  • 【広義】無人機全般(飛ばないのもあり) 
  • 【広義】プロペラが4つ以上のマルチコプター(人が乗れるのもあり)


…なんだか枝分かれしております。

イメージが変化するきっかけは何だったのか?

大きな転機をもたらしたのは、このドローンです。


フランスのParrot社が2010年に発売した「AR.Drone」です。

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1009/09/news057.html

↑当時の紹介記事を見れば分かるのですが、かなりの衝撃的なデビューだったようです。

分類としてはラジコンヘリの一種として紹介しています。当時はドローンという言葉が一般的ではなかったことが分かります。

「ガキ使 絶対に笑ってはいけない」シリーズの「2010年 絶対に笑ってはいけないスパイ24時」に登場しましたが、出演者たちは「なにこれ!」と驚き、テロップではiPhoneで操縦する飛行機と解説されていました。


実はそれまでも、4枚のプロペラを備えたマルチローター機、カメラを搭載したラジコンヘリは存在しており、技術的には既存のものでした。

現在のドローンの形を開拓したのは、意外にも日本の会社です。大阪のKEYENCEという会社が世界で初めてクアッドコプターを市販したのは、1989年とされています。


こちらは1991年に放映された、KEYENCE GYROSAUCER IIのTVCMです。



1998年頃に発売されたKEYENCE engager GSIII

ただし、当時の商品説明ではどこにもドローンという単語が登場しません。クアッドコプター=ドローンではないのです。


では、Parrot社のAR.Droneの何がパラダイムシフトを起こしたのか。

理由を突き詰めると、以下の3点が主な原因のように思います。

安価である。(定価 299.99 USドル)
操縦はiPhoneと専用アプリだけで行う。
超音波センサーにより、自動で高度を一定に保つ。

特にスマートフォンを使うという試みが画期的で、ラジコンを専用のプロポ(送信機)から開放し、価格も抑えました。ソフトウェアの更新も容易で、大きな液晶画面で機体からの映像をライブで確認しつつ、直感的に動かすことができます。スマホは大勢の人が身近に持つことになる、無線付きの小型モニター兼パソコン兼コントローラーだったわけです。

さらに掘り下げてみると、軽くてパワフルなリチウムポリマー電池の登場、姿勢制御に使うジャイロセンサー等が、スマホの登場により大量生産が始まり、それまでより小型で安価になった、といった要因が見つかります。そういった時代的な要因がいくつも積み重なり、組み合わせてタイミングを掴んだ商品だった訳です。

このAR.Droneのヒットにより、それまでジャイロソーサー、クアッドコプター等、呼ばれ方が様々だった商品群が、一つの総称で呼ばれるようになっていきました。それがドローンです。同じ無人機でも、ラジコン飛行機やラジコンヘリがドローンと呼ばれないのはこのためです。

Parrot社はその後、フルHD画質の映像が撮れ、GPSによる機体制御が可能なBebopBebop2といった商品でヒットを飛ばしました。


一方でParrot社の前に立ちはだかり、あっという間にシェアのトップに躍り出たのが中国のDJI社です。

ジンバルと呼ばれるカメラの土台は、自動的に立体的な動きでレンズの振動を打ち消します。これにより、空撮映像のネックだった画面のブレが大幅に軽減されました。

DJI社のドローンはジンバルの小型化、軽量化で空撮に革命を起こしました。誰でも品質の高い映像を撮ることが可能になり、あらゆる映像メディアで空撮映像が珍しくなくなりました。


高価・高品質路線を選んだDJI社は、趣味の空撮機から産業用の大型機まで幅広いラインナップを揃え、2015年には商用ドローンのシェアの7割を占めるようになります。

映像、農業、測量の世界にもたらした良い影響の一方で、数々の事件により、悪い印象がドローンを有名にした面もあります。


日本国内でも首相官邸への落下、浅草の三社祭の妨害、関空周辺での飛行で滑走路閉鎖など、操縦者のモラルの欠如による事件が起こりました。また、落下による怪我人が出るなど、その危険性も認知されるようになりました。

こうした事件がニュースで報道され、法による規制が整備され、ドラマや映画でもストーリーの中に組み込まれた結果、それまでラジコン愛好家やガジェットオタク、映像業界でしか知られてなかったドローンが、一般の人々に浸透していったのではないでしょうか。

私も空撮の許可取りのため、ほうぼうでご年配の土地管理者とお話しする機会があるのですが、「ドローン」という言葉で分かっていただけないことは稀です。

最初の頃の"drone"という言葉は軍事用のコードネームだったのかもしれませんが、今では誰にでも通じて、しかも定義が曖昧になっていく、面白い世界語だと思います。


(2020年6月上旬ごろ記す)

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